それからAさんが配属になるまでの1ヶ月間、特に会社側からはなにも説明はありませんでした。しかし車椅子という事と入社してくるAさんへの接し方についてどのようにすれば良いか気になり、自分から職場で話題にしてみました。たしかに誰もが車椅子を使っている障害者に接するのは初めてということもあり
いやー、考えれば考えるほど疑問が出てくるけれど何一つ回答が出てこない。結局「普通が良いのでは」という1人の発言でその場は終わり。本人が来てから普段の中で何が問題か、何をすれば良いか解ってくるさという訳で、なんと無責任というか気楽なものです。
それでも収まりがつかない私は、何か自分で出来ることはないかと職場をざっと見渡すと、荷物で通路は狭い所があるし、コンピューター関係の配線が床を這いまわっているし、自分が椅子に座ったまま移動するのに邪魔だなと思っているところが何カ所もありました。
特にコンピューター担当としてはむき出しになっている配線や、配線を収納するモールは前々から気になっている部分でもあった訳ですが、コンピューターがこんなに普及することを考えていない頃の建物なので、床下に配線を収納できるフリーアクセスなどあるわけが無く、床はいたる所に高さ3センチほどの電線を収納するモールが走っています。
前々から歩くのに邪魔だという声はあったのですが、「つまずかないように注意して」と冷たくあしらう程度です。実際それでつまずく人もほとんどいなかったのですから、増え続けるコンピューターやプリンターのために床は碁盤の目のようにモールが敷設されていました。
さてここで困ったのが3センチの高さが車椅子に与える影響が解らない!
なんたって今まで私も含めて職場の誰もが車椅子に触ったこともない!
自分が椅子に乗ったまま床を移動するときには、モールの上を通過するときにちょっと足を付いて椅子を持ち上げれば済むことですが、いったい足が不自由なAさんの車椅子は大丈夫なのか?
悩んでいても仕方ないし、気になるととことんこだわってしまう私はカタログを取りだして調べてみると、角のない半円状のモールが存在することを見つけ早速発注。何カ所か試しに交換したところ、これが職場の皆の評判も上々で、結局自分でモールを交換する羽目になりました。
後日自分で車椅子を体験させてもらってモール程度ではたいした障害物にはならないことは判りましたが、やはり平らな床にこしたことありません。
また採用部署では”障害者雇用ガイドブック”を元に、出入口やロッカールーム、トイレなどの扉の寸法や、トイレの中のテスリなどをメジャーを持って計っていました。ガイドブックによると扉の開口部は85センチ以上なければならないということで、ロッカールームの扉は後に大きな引扉に交換する工事が行なわれました。