結果としてこの日は船で浅草から日の出桟橋へ向かい、そこでハーバークルーズの船に乗り換え、東京港巡りをし、新交通システムユリカモメと都営地下鉄浅草線を使って浅草へ戻るという今までにない冒険を多くの人達の善意で乗りこえることが出来、とても思い出深い旅になりました。
都内へ向かう高速道路はどうしても運転が嫌だと言うことで、高速道の入り口で運転手交代。首都高速、向島出口で下り、浅草へ向かいす。浅草の桟橋近くに車を止めてAさんは車椅子に移ってもらい今回はあえてクラッチを持たずに冒険の開始です。
桟橋の乗船券売場は20段ほどの階段の上にありました。スロープが無いものかと暫く道路の上や脇の方も探してみたのですが見つけることが出来ずに、階段の下に行くと乗船券売場の近くに居た若い社員2名が「乗船ですね」と声を掛けてきてくれました。
日の出桟橋まで行きたいと伝えるとその場で車椅子の前を持ち「後ろ側はお願いします」と私に声をかけ、階段を昇り始めました。手際がいいというか、いつもの事なのでしょうか、とても慣れているようです。私は通常料金、Aさんは半額で乗船券を購入し、先ほどの2名が今度は船までの急な坂を下り、乗船するまでを手助けしてくれました。
船は2階建てで1階の客室へ入るにも階段があるために後部デッキに座って約40分の隅田川下りがスタートしました。吾妻橋、厨橋、駒形橋、蔵前橋、JR総武線、両国橋、首都高速、新大橋、清洲橋、隅田川大橋、永代橋、中央大橋、佃大橋、勝関橋と、14本の下をくぐって行きます。夜は各橋がライトアップされ幻想的な世界なのだそうですが、日中は普段見られない角度から東京の様子をゆっくり見ることが出来、35分という時間はあっという間に過ぎていきます。初めの頃は川の水が臭くて、すれ違う船の波で揺れた時に起こる水しぶきも何か汚い感じがしていたのですが、浜離宮へ近ずくに連れて微かな塩の臭いが感じられるようになりました。
浜離宮から日の出桟橋まで5分で到着し、ここでも3人の社員の方が揺れる船からAさんの車椅子を降ろしてくれました。
次のハーバークルーズまで約1時間あるので浜松町の駅へ昼食を取りに行くことにしました。ところが東芝ビルの脇にある渡り廊下への昇り口2カ所は階段しかなくどうしても登ることが出来ません。土曜日ということもあり人通りも少なく、暫く思案していましたが結局あきらめて東芝ビルの中へ行ってみることにしました。
ところがここも正面は、なだらかながら階段。脇に廻ってみると回転扉が1つだけありました。扉を回してみると半時計方向には廻るけれど、時計方向には廻らない。車椅子ごと入ってもバックも前進も出来なくなったらどうしようと扉の前で悩んでいましたが、扉の間隔はなんとか車椅子ごと入りそうなので強行してみると、車椅子と私が入って丁度良いスペース。車椅子がガラスをカチャカチャいわせながらかろうじて通過することができました。
次に待っていたのがなだらかな下り階段。下りることが出来ても上がることは出来ないのではないか?とまた悩んでしまいました。上から下への移動は私1人で何とかなりますが、一端下りてしまって上がろうとするととても大変なのです。幸い近くにスロープを見つけることが出来、食堂街にたどり着きましたが、船の出航時間も迫っているし、お弁当を買って戻りました。
ハーバークルーズの船に乗船するときも桟橋に居た社員の方3名が介助してくれましたが、3階まで車椅子をあげてくれるように頼みましたが、時間がないということでさすがに断られてしまいましたので1階のテラスの座席に座り潮の香りを楽しむことにしました。この船はレインボーブリッジをくぐり、品川埠頭、お台場、晴海埠頭を約50分間で巡りますが、先ほど買ったお弁当を食べて景色をぼーっと眺めていたらアッという間に元の日の出桟橋に戻ってきました。
帰り道は電車を使うことを考えていましたが、先ほどの下見で東芝のビル脇にある浜松町駅へ通路の入り口は階段しかないことが判っています。どうやって浜松町駅まで行こうかと思案しながら上を見上げるとモノレールのようなレールが通っています。案内看板で確かめたところユリカモメでした。
駅も近くに有ったので行ってみるとなんとエスカレーター!。道路の反対側にはエレベーターが有ったようですが、交差点まで戻るのも面倒なので、そのまま動いているエスカレーターへ突進していきます。Aさんの「え!本当にやるの」の問いに「何とかなるさ」と、答えてそのまま突っ込んでいきます。昇りはじめ、車椅子の前輪が持ち上るにつれて、ガタガタ、ギシギシと異様な音を立てます。私は車椅子がずり落ちてこないように後輪のしたに足を置いて、全身で車椅子を押さえながら、Aさんにうわずった声で「ブレーキをかけて」と声をかけるのが精一杯でした。
当たり前ですが、エスカレーターに乗った私達は30秒ほどで上に到着します。エスカレーターのステップが平らになる前にブレーキを解除してもらい、ようやく到着。思わず2人で歓声を上げながら拍手をしてしまい、他の人が不思議そうな顔をしていました。
実は私もAさんも通常のエスカレーターに車椅子を載せるという荒技を経験するのは初めてでした。前々からやってみたいとは思っていたのですが、「専門家に教わってから」と言うAさんの要望で見送られていたのです。今回必要に迫られて強行してしまったわけですが、このあと都営地下鉄浅草線で、浅草で下車するべきところを間違って浅草橋で下りてしまい、そこでもためらうことなく動いているエスカレーターに車椅子を乗せることが出来ました。もっとも下車駅を間違えたことを改札で気が付いてホームに戻る下りエスカレーターは怖くて、駅員さんに手伝ってもらうはめになるのですが・・・。
ユリカモメの日の出桟橋駅へ話を戻します。
ユリカモメは車輪に自動車と同じタイヤが使われていて運転手も居ないコンピューター制御の列車です。駅も無人駅で券売機のところにインターホンが付いているだけです。インターホンを押して障害者割引の切符を購入したいと申し出ると、自動券売機の「福祉」のボタンを押してくださいとのこと。
何度かのやり取りで割引の切符が2枚出てきました。もちろん改札もホームも無人ですが、幅の広い自動改札機とエレベーターが設置されホームも列車が入ってくるまで扉が閉まり転落防止が施されていました。車内は座席の幅が狭く車椅子のままでは前後方向に移動が出来ませんでした。またコンピューター制御されている列車の発車や停車、加速減速がすこし乱暴のような感じを受けましたので、杖や1人で車椅子を使って乗車するときは注意した方が良いかも知れません。
なんだかんだ言いながらアッという間に新橋駅に到着。改札を出てエレベーターで地上に降り、都営地下鉄浅草線の入り口へ向かいました。
しかし何処を探しても階段しか有りません。あと一息のところで絶体絶命のピンチです。しばらく悩んでは、移動して、また悩んでを繰り返していましたが、階段しか見つかりません。しばらく2人で立ち往生していたのですが、ふと我に返って駅員さんを呼んでくれば良いことに気が付きました。
私1人で階段を降りて駅事務所へ声を掛けると出てきたのは駅長さんでした。車椅子の介助をお願いするともう一人駅員さんを連れて来てくれました。さて私も長い階段を車椅子を担いで下ろすのは初めての経験です。Aさんの車椅子を後ろ向きにして駅員さん2人が車椅子の後ろ側を持ちます。私1人で前側の上の部分を持って階段を下ろしはじめてたのですが、車椅子の前輪が邪魔になって、がに股のなりなんとも下ろしにくい。前かがみになり力も入らない。
階段の途中にある踊り場に付いたところで今度は車椅子の前輪近くのフレームを持ってみるとAさんは仰向けに近い姿勢になり多少苦しそうですが、下ろす側としてはかなり楽になりました。それでもかなり長い階段で途中休み休みしながらようやく改札が有るフロアーへ。ここで駅員さん2人にお礼を言うとい「いやいやまだホームへ下りなければなりませんからね。今度はもう1人応援を呼びましたから」というわけで、今度は4人で改札からホームを下ろしてもらいました。ここで駅員さんが「浅草駅へは連絡しておきますからご安心ください。」と見送ってくれました。
Aさんは地下鉄に乗るのが初めてでした。まあ、ここ数ヶ月の間で今まで私鉄やJR在来線、新幹線、ユリカモメ、そして遊覧船と精力的に出歩いた来たわけで、地下鉄もさほどかわりがないのですが、やはり階段の昇り降りにはかなり苦労しました。それでも地下鉄車内で座席を取り外して車椅子専用スペースを見つけて2人で感心して見とれていました。
浅草橋駅を浅草駅と勘違いして途中下車してしまうトラブルなどがありましたが、無事に浅草駅に到着。一列車遅れたのに浅草橋駅からの連絡で駅員6名が待機してくれていました。ホームから改札、さらに地上へと元気の良い若い駅員さんがAさんの車椅子を担いで長い長い階段を御神輿のように担いでくれます。あまりに元気が良すぎて天井に頭をぶつけそうになる程でしたが無事に地上に。
この日の船に乗り、レストランを探し、電車や地下鉄を乗り継ぐという無計画旅行も無事終わりました。
今回は駅員さんなど多くの方々の手を煩わせ、お手伝いいただきましたが、前回のハイキングといい、不思議と何とかなるものです。